(抄読会の無い病院勤務のため,独り抄読会をと思い始めてみました.)
(解釈は個人の見解であり,誤りがあるかもしれません.その場合はご指摘ください.)
第1回目:脳性麻痺児の分娩時の胎児心拍陣痛図を解析した研究
この領域で大規模なもので本邦から出ているものは近年ではなさそうなので
大変勉強になりました.
産婦人科トップジャーナルに本邦から論文が出ており注目しました.
主な私の解釈,批判は青字にしております.
Fetal heart rate pattern in term or near-term cerebral palsy: a nationwide cohort study(Am J Obstet Gynecol. 2020 Dec;223(6):907.e1-907.e13.)
Known:分娩時の低酸素イベントは脳性麻痺の主因.
CTG/胎児心拍に基づく分娩時の管理は脳性麻痺の予防において重要.
Unknown:CTGがどれだけ脳性麻痺を防ぐことに寄与するか不明.
Phelan and Ahnの分類(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9524150/)は,
①malpractice(医療過誤?)症例を集めている
②分娩前2時間のみしか解析していない
③筆者2人が一人づつ解釈している
上記よりバイアスや制限がある.
目的:脳性麻痺児の分娩時のCTG/胎児心拍の特徴を解析する.
連続的なCTG/胎児心拍解析と大規模研究により上記のバイアスを克服する.
デザイン:観察研究 後方視
産科医療補償制度データベースを使用. http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/
比較,検定はしていないので記述的研究?
→ このような場合でも,コホートになるのか?(タイトルにコホートとある.)
対象:重症脳性麻痺/34w以降/5歳までに認定されている/ 01/2009-12/2014 /
(ホームページが参考になる
http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/outline/compensation.html#range)
除外:CTGが解析不適正なもの(バイアス)
(42w症例も含まれておりterm/near termだけではない[細かい])
解析方法:胎児心拍を3人の医師が独立して解析.
既報の5分類に当てはめる.(下図)(4番目が Hon's pattern)
当てはまらないものは ”unclassified” とする
脳性麻痺の主因についても解析.
(常位胎盤早期剝離/臍帯因子/子宮破裂など)
結果:重症脳性麻痺 n=1593
→ 除外 ①記録不適正 n=370, ②34週未満 n=154
→ n=1069を解析
(記録不適正が無視できない程度に多い)
心拍異常分類の内訳:
①Bradycardai n=84 (7.86%) 入院時から徐脈
②NR-NR n=232 (21.7%) 入院時から所謂NRFS
③R-PD n=197 (15.6%) 入院時はRFSだったが急速(1時間以内)にseverePDへ
④R-Hon(Hon's pattern) n=170 (15.9%) 入院時はRFS,徐々(1時間以上)にNRFSへ
⑤R-R n=212 (19.8%) ずっとRFS ←想像より多い
⑥unclassified n=204 (19.1%) ←多い バイアスとなる.
→ 分娩時に低酸素イベントが起きている③,④が併せて30%程度
分娩前からイベント発生している①,②も併せて30%程度
解析者間の一致性(内的妥当性):
・全体 Fleiss' kappa 0.59 ←概ね妥当
・R-Hon Kappa 0.47 ←低め!!
脳性麻痺の主因解析:(全体の44%が特定できた. ←低い バイアスとなる.)
単一原因としているからか?
・常位胎盤早期剝離 31.9%
・臍帯異常 20.3%
・子宮破裂 5.50%
・臍帯脱出 5.29%
(これが臍帯異常に含まれないのはもともとのデータベースの特性?)
・母児間輸血 5.07%
・不適切な器械分娩 3.38%
以下諸々と続き・・・・・
・出生後合併症 17.8% ←新生児の要因は認定除外になるのでは?
R-Honにおける脳性麻痺の主因:
・臍帯異常 29.9%
・常位胎盤早期剝離 20.9%
・不適切な器械分娩 13.4%
・子宮破裂 9.0%
・子宮 過収縮 頻収縮 3.0%
・臍帯脱出 3.0%
・FGR 3.0%
・母体の心肺停止? 1.5%
以下諸々と続き・・・・・
・出生後合併症 13.4%
胎児心拍異常5分類別の母児の特徴:
R-Honにおいては
・初産 74.7% 他より高い
・帝王切開 30.6% 他より低い
・分娩誘発陣痛促進 72.4% 他より高い
・器械分娩 49.4% 他より高い
・子宮底圧迫 48.2% 他より高い
・無痛分娩 13.5% 他より高い
全体における母児の特徴:
・帝王切開 44.0%
・胎児心拍を理由にした帝王切開 93.0%
→ 4割がNRFSで緊急帝王切開しているが間に合ってない
・双胎 2.53% ←双胎は違うetiologyなのではと個人的には思う
・臍帯動脈血ガスpH Median (IQR) 7.12 (6.83-7.29)
・pH >7.00 61.7%
・Apgar score 1min >7 27.3%
・Apgar score 5min >7 38.4%
→ ガスやApgarが大丈夫なCPが多い印象
Strength:最初の包括的国家規模の研究.
脳障害発生のタイミングを反映した胎児心拍図の解析をした.
上記の既報のバイアスを克服した.
Limitation:後方視であること.
軽症の脳性麻痺へは適応できなかもしれないこと(一般可能性).
脳障害のタイプや程度は解析していないこと.
(現在MRI所見をあわせた研究がongoingとのこと.)
結論:重症脳性麻痺では低酸素イベントが分娩時に発生するものが30%を占める.
最大16%の重症脳性麻痺は,R-Honに注目することで防ぎうる.