あえて書こう、切迫早産に対するリトドリン治療について
日本では数多くの施設で切迫早産に対して
①長期入院 ②安静 ③長期のリトドリン点滴 を行っている
果たして本当に正解なのであろうか?
もちろん早産は子供にとって避けるべき事象である
呼吸状態は悪くなるし、脳にとっても悪い影響がある
それを防ぎたいという思いは医療者は持っている
しかし、診療行為というものは
メリット:ここでは早産を防ぐ効果
デメリット:合併症、副作用など
のバランスをみて正当化されるものである
デメリット
ではまずデメリットから考えてみる
・長期入院、安静によるストレス
大部屋であれば他人と24時間一緒に過ごすことになる
病院の美味しいとは言えない食事
家族と離れ離れで過ごす悲しさ
これは単純に妊婦の精神状態が悪くなるというだけではなく
妊娠中の精神状態の悪化と児への悪影響の関連を示す報告もある*
また、寝たきりは血栓症のリスクである
・リトドリン点滴の副作用
母体に対しては
①肺水腫(肺に水が溜まって呼吸状態が悪くなる)
②無顆粒球症(細菌やウィルスと戦う免疫を担う白血球が減少するもの)
③心臓や血管の疾患(心不全など)
④横紋筋融解症 筋肉が壊れる
⑤高血糖 妊娠糖尿病のリスク
児に対しては
①低血糖 重篤化するの脳障害を起こす
②高カリウム血症(硫酸マグネシウムと併用がリスク)
③喘息の有症率の増加
等が報告されている
最近ではこのような日本におけるリトドリン使用の母体有害事象の増加を示した報告がある https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31215479/
メリット
①48時間の妊娠延長効果は認められている
その48時間があれば
大きな病院への搬送や
児の予後改善のためのステロイドの投与ができる
しかし、あくまで48時間なのである
もちろん個人差はあるだろう
しかし個人差と言えど、100歩譲って、1週間以上の長期投与を支持するものではないというのが私の感覚である
これまでにわかっていることから考えればリトドリンの長期使用が正解とは言えないのではないだろうか?
では、なぜ日本ではこのようなスタイルの診療が当たり前のように行われているのか?
おそらくそれは今までの経験、慣例、伝統?から来るものだろう
EBM のEが Evidenceではなく Experienceになっているのである
もちろん経験も重要である
しかし、使用を続けるのであれば、観察研究でもいいから効果を証明すべきではないだろうか?
経験だけでは不味いのである
雨乞い3た論法はご存じだろうか?
①雨乞いをした!
②雨が降った!
③雨乞いが効いた!
結論 雨乞いは雨を降らせる効果がある
もちろんこの結論にほとんどの人が違和感を感じるだろう
でもそれが薬になるとなぜか結論を信じてしまうのである
①リトドリンを使った!
②早産ではなかった(正期産だった)!
③リトドリンは聞いた!
結論 リトドリンは切迫早産に効く
薬の効果を示すには 薬を使っていない人との比較が必要である
(細かいことを言うとそれ以外にもアプローチが知られてるが)
つまり、経験だけではなく、検証が必要なのである
(最新の産婦人科ガイドラインにおいても症状が落ち着いた切迫早産に対してはリトドリンの減量・中止を検討するよう記載されている)
*妊娠中の精神状態と児の予後の関連
https://bmjopen.bmj.com/content/4/11/e004883
https://www.medscape.com/viewarticle/573947